共溶媒分子動力学法 (2019/04-)

共溶媒分子動力学 (mixed-solvent molecular dynamics; MSMD) 法は、 タンパク質を溶質、水分子と共溶媒分子を溶媒とした分子動力学 (molecular dynamics; MD) 法です。 共溶媒分子がタンパク質表面のどこに、どの程度存在したか?という情報を基にホットスポット検出や結合親和性評価を行ったり 共溶媒分子によってタンパク質構造の変化が誘発されることを利用したcryptic結合部位(隠された結合部位)発見などに活用されています。

このMSMD法について、様々な提案を行ってきています。

共溶媒の相互作用プロファイルの設計 (Inverse MSMD)

通常、共溶媒MDはタンパク質周辺の共溶媒の存在確率をマッピングしますが、逆に、共溶媒の周辺のどこに、タンパク質のどのような残基が出現しやすいかを推定する inverse MSMD を開発しています。

inverse MSMD

また、このプロファイルをタンパク質表面に当てはめることで結合の強弱を推定する定量的インバース共溶媒MD法を開発中です。

quantitative inverse MSMD

  • Keisuke Yanagisawa, Ryunosuke Yoshino, Genki Kudo, Takatsugu Hirokawa. “Inverse Mixed-Solvent Molecular Dynamics for Visualization of the Residue Interaction Profile of Molecular Probes”, International Journal of Molecular Sciences, 23: 4749, 2022/04. DOI: 10.3390/ijms23094749

アミノ酸を共溶媒としたMSMD (AAp-MSMD)

共溶媒としてアミノ酸を用いることで、タンパク質間相互作用表面予測や、ペプチド結合部位予測、残基の変化による結合親和性変化推定などを行える手法です。

AAp-MSMD

  • Genki Kudo†, Keisuke Yanagisawa†‡, Ryunosuke Yoshino‡, Takatsugu Hirokawa. “AAp-MSMD: Amino Acid Preference Mapping on Protein-Protein Interaction Surfaces Using Mixed-Solvent Molecular Dynamics”, Journal of Chemical Information and Modeling, 63: 7768-7777, 2023/12. DOI: 10.1021/acs.jcim.3c01677

共溶媒分子セットの構築 (EXPRORER)

共溶媒MDを行う研究は多数ありますが、利用する共溶媒はその研究対象に応じて様々であり、統一的な決まりがありません。 これに対して、薬剤分子を部分構造に分割して頻出する構造を100件以上列挙し、全てについて実際に共溶媒MDを実施することで、「薬剤分子に頻出する部分構造をカバーできる」共溶媒セットの構築を行いました。この結果によると、従来法では単糖が見逃されていることが示唆されています。

EXPRORER

  • Keisuke Yanagisawa, Yoshitaka Moriwaki, Tohru Terada, Kentaro Shimizu. “EXPRORER: Rational Cosolvent Set Construction Method for Cosolvent Molecular Dynamics Using Large-Scale Computation”, Journal of Chemical Information and Modeling, 61: 2744-2753, 2021/06. DOI: 10.1021/acs.jcim.1c00134

化合物フラグメントに着目した構造ベースバーチャルスクリーニング手法の開発 (2014/4-)

構造ベースバーチャルスクリーニング (Structure-based virtual screening, SBVS) とは、薬剤開発の標的タンパク質の3次元構造を用いて、大量の化合物群から有望な化合物を選抜する処理のことです。この手法は広く注目されていますが、計算時間・精度いずれの面からも性能改善の余地が大きく残されています。

我々は、化合物の部分構造であるフラグメントに着目して研究を行っています。2800万件余りの化合物は、僅か26万件程度のフラグメントで表現できることが知られており、化合物間のフラグメント共通性を利用した計算の高速化を目指しています。

タンパク質化合物ドッキング計算ツール REstretto の開発

フラグメントの共通性を利用したタンパク質化合物ドッキング計算ツールとしてREstrettoを開発しています。この手法は、1万件程度の化合物に対して、AutoDock Vinaと同程度の速度・性能を示しています。化合物数が増えるに従ってさらに高速にドッキング計算を行うことが可能です。

REstretto

  • Keisuke Yanagisawa, Rikuto Kubota, Yasushi Yoshikawa, Masahito Ohue, Yutaka Akiyama. “Effective protein-ligand docking strategy via fragment reuse and a proof-of-concept implementation”, ACS Omega, 7: 30265-30274, 2022/08. DOI: 10.1021/acsomega.2c03470

量子アニーラを用いたドッキング計算

量子アニーラ (quantum annealer) とは、量子コンピュータの一種であり、特定の形式の組合せ最適化問題の最適解を高速に解くことができると考えられています。そこで、ドッキング計算を QUBO (quadratic unconstrained boolean optimization) 問題として定式化しました。実用に至るまでには改善の余地が多数存在しますが、従来法とは全く異なる速度性能を得られる可能性があるため、我々は研究対象としています。

  • Keisuke Yanagisawa†, Takuya Fujie, Kazuki Takabatake, Yutaka Akiyama†. “QUBO Problem Formulation of Fragment-Based Protein-Ligand Flexible Docking”, Entropy, 26: 397, 2024/04. DOI: 10.3390/e26050397

フラグメント分割に基づく高速な化合物プレスクリーニング手法の開発

時に数億化合物以上にもなる膨大な化合物群を1件ずつドッキングすることは、残念ながら計算量的に困難であり、化合物群をあらかじめ削減すること(プレスクリーニング)が多く行われています。これについて、タンパク質の3次元構造に基づきつつも高速に化合物を評価するプレスクリーニング手法**Spresso**を開発しています。

Spresso

  • Keisuke Yanagisawa, Shunta Komine, Shogo D. Suzuki, Masahito Ohue, Takashi Ishida, Yutaka Akiyama: “Spresso: An ultrafast compound pre-screening method based on compound decomposition”, Bioinformatics, 33: 3836-3843, 2017/12 [open access]
  • Keisuke Yanagisawa, Shunta Komine, Shogo D. Suzuki, Masahito Ohue, Takashi Ishida, Yutaka Akiyama: “ESPRESSO: An ultrafast compound pre-screening method based on compound decomposition”, The 27th International Conference on Genome Informatics (GIW 2016), 7 pages, 2016/10

半教師付き学習を用いた薬物クリアランス経路予測 (2013/04-2015/08)

薬物化合物の分子量 (MW)、分配係数 (logD)、血漿中タンパク質非結合率 (fup)などを計算し、これらの値を利用してヒト体内のどのような代謝・排泄経路(クリアランス経路)を通過するかを予測します。

Clearance

この予測問題は「ラベル付け(クリアランス実験)のコストが非常に高く、ラベル付けされていない化合物構造は大量に存在している」という性質を持っています。 したがって、一般によく用いられる教師付き学習ではなく、ラベル付けされていないデータも利用することの出来る半教師付き学習が予測に適していると考えられます。

SL_SSL

  • Keisuke Yanagisawa, Takashi Ishida, Yutaka Akiyama: “Drug clearance pathway prediction based on semi-supervised learning”, IPSJ Transactions on Bioinformatics, 8: 21-27, 2015/08 [open access]